プロ野球の世界でよく出てくる話で左投手の速球派は大成しにくいというものがあります。
メジャーリーグの世界では投手の球速はトレーニングで何とかできるがコントロールは難しいという話をききます。
プロ野球、メジャーリーグとわず野球界において速い球を投げるためのメカニズムやメソッドと比べ、コントロール能力についてのメカニズムやメソッドは何処からくるのかが曖昧なところがあります。
今回考えていきたいのはプロ野球選手でもコントロールの良い投手の代表格となる投手とそれ以外の投手との違いは何処にあるのかです。
工藤公康、上原浩治とコントロールに定評のあった投手の学生時代からプロ入り後に至るまでのトレーニングメニューについて特に走り込みのメニューを記事やインタビュー等で追っていくと短い距離のダッシュや長距離ランニングを走り込みとする投手が多い野球界において彼らは150mから300mのダッシュが多いというのがみえてきます。
プロのレベルでコントロールの良い投手は走り込みのメニューにおいて短長距離の重要性を知っている選手なのではと思います。
工藤投手と白木トレーナーとのエピソードではこんなものもあります。
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朝起きて6~7キロのランニング。朝食後、陸上トラックに行って260メートル走を50~60本こなす。終わってからさらに200メートル走だ。休憩しても心拍数が150以下にならないうちにスタートするという具合。
さらにウエートトレーニング、スクワット、ジャンプして空中で足を前後に入れ替えるフライングスピリット、ウエート(重り)を持って跳ねるジャンプを限界まで……。
こんなにやって壊れないんですか? と聞くと「壊れる一歩手前だよ。でもそれは私が見ているから大丈夫。工藤君はメニューをしっかりやり続けて」。この人は鬼だ! と思ったこともありました。
それでもやり続けて行くと、筋力も上がり、投げても疲れなくなりました。50メートル走が6.3~6.4秒だったのが、5.7~5.8秒にまで速くなりました。
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この時、工藤投手は20代後半です。工藤投手をはじめコントロールが良いピッチャーは走る練習メニューで猛練習をした際に足が速くなりやすいというのはもしかしたら調べるとみえてくるかもしれません。
そうしたエピソードもふまえて今回も腸骨筋に着目してみていきますが歴代の速球派投手とコントロールに定評のあった投手では投球時におろした足の着地の際の膝の向きに大きな違いがあります。
松坂大輔、小松辰雄、高橋一三といった速球派投手はおろした足の膝が真っ直ぐ正面、もしくは外に流れるのに対して
工藤公康、小山正明、宮田征典といったコントロールに定評のあった投手は膝がうちに入っています。
速いボールを投げることが出来る投手は背筋群と内転筋が強い選手になります。この背筋群や内転筋のエネルギーを腸骨筋が受け止めきれていないのが速球派投手なのかもしれません。
速球派投手が投げ込みや体幹やインナーマッスルのトレーニングである程度のコントロールまでは手に入れることができても最高レベルのコントロールを獲得できなかったのはこの腸骨筋が盲点だったのではないかと思います。
おろした足の着地の際に重要な役割を担っているのが腸骨筋であり、腸骨筋が強い選手は指導からフィニッシュまでブレを少なくできるため、ボールのコントロールをイメージ通りにできやすいのではと思います。
コントロールに定評のある投手は腸骨筋でエネルギーを受け止めることが出来ているので膝がうちに入り、上体の動作に余裕ができます。
内転筋等からくるエネルギーを受けとることができる腸骨筋を持つ投手はコントロールがいい。
そうした中で内転筋、大腰筋が強い速球投手が腸骨筋を鍛えていくことが出来れば速い球とコントロールをあわせ持つ投手となることができるのではないかという仮説が考えられます。
金田正一、江夏豊は最初の立ち姿勢、フィニッシュ時のおろした足の膝の位置からして腸骨筋が強いスピードとコントロールをあわせ持った投手だったのではないかと思います。
金田投手のフォームは内転筋は現在の選手と比べて決して強くはありませんが、上体においての投手としての素質が圧倒的な中、その力を受け取ることができる腸骨筋を持っていたことがみえ400勝も納得です。
江夏投手は金田投手と比べれば上体のかたさがみえますが内転筋をはじめ、足腰のバランスが非常に優れていてコントロールの良い投手のお手本のように思います。
近年、速いボールを投げるためにはどのようなトレーニングをすれば良いのかがわかってきたことと比例してトップレベルの投手においてコントロールが昔ほどプロらしくない投手が増えてきたように感じていますがこれは内転筋と腸骨筋のバランスが内転筋優位の選手が増えたことも要因ではないかと思います。
軸足の腸骨筋を軸とした立ち方、内転筋や大腰筋、上体のエネルギーを受け取るだけの腸骨筋の強さがコントロールをトップレベルに到達するためのヒントではないかと思います。